2023年4月から、自転車に乗るすべての人にヘルメット着用の努力義務が課されています(道路交通法63条の11)。「努力義務だから、かぶらなくても罰則はない」——これは正しい理解です。しかし交通事故の損害賠償の実務では、ヘルメットをかぶっていなかったことが賠償額の減額につながる可能性という、あまり知られていない論点があります。本コラムでは、努力義務の正確な意味と、事故時の過失相殺への影響、2026年4月に始まった自転車の青切符制度との関係まで、弁護士が解説します。
努力義務とは——罰則はないが「法律上の義務」ではある
道路交通法63条の11は、自転車の運転者に対し、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならないと定め、同乗させる子どもにも着用させる努力義務を保護者に課しています。違反しても罰則や反則金はありません。2026年4月から自転車に導入された青切符制度(交通反則通告制度)でも、ヘルメット非着用は取締り対象に含まれていません。信号無視やながらスマホのような「違反」とは法的性質が異なるのです。
なぜ着用が推奨されるのか——数字で見る頭部損傷のリスク
警察庁の統計では、自転車事故で亡くなった方の損傷部位は頭部が半数以上を占め、ヘルメット非着用時の致死率は着用時と比べて大幅に高いことが繰り返し示されています。努力義務化の背景には、この「頭部を守れば助かる命が多い」という統計的事実があります。万一の事故で自分と家族を守る観点からは、法的義務の有無にかかわらず着用が最善の選択です。
本題——非着用だと賠償額が減らされるのか(過失相殺の問題)
自転車事故の被害者が損害賠償を請求する場面で、加害者側(保険会社)から「ヘルメットをかぶっていなかったのだから、損害の拡大は被害者にも責任がある」という主張(過失相殺・素因減額の主張)が出されることがあります。
この点、裁判例の扱いは分かれています。努力義務にとどまる以上、非着用を直ちに「過失」と評価することには慎重な裁判例が多い一方、頭部損傷の拡大と非着用との因果関係が明確な事案で、賠償額の算定に影響させた例も存在します。2023年の努力義務化により、今後は「着用すべきだった」という主張がより通りやすくなる可能性も指摘されています。被害者側としては、①非着用と損害拡大の因果関係を安易に認めない、②そもそもの事故態様における相手の過失を的確に立証する——という反論が重要になります。保険会社から減額主張を受けたら、そのまま受け入れず弁護士にご相談ください。
子どもの事故と保護者の立場
13歳未満の子どもについては、努力義務化以前から保護者の着用努力義務がありました。子どもが被害者となった事故で、保護者がヘルメットを着用させていなかったことが「被害者側の過失」として考慮されるかも争点になり得ます。また、子どもが加害者になった場合(歩行者との衝突など)には、監督義務者である親が賠償責任を負う可能性があり、自転車事故で9,500万円超の賠償が親に命じられた裁判例(神戸地裁平成25年7月4日判決)は広く知られています。自転車保険(個人賠償責任保険)への加入は、多くの自治体で義務化されており、神奈川県でも義務です。
よくある質問
Q. ヘルメットなしで事故に遭ったら、賠償請求は不利になりますか?
請求自体は当然できます。減額されるかどうかはケースバイケースであり、負傷部位が頭部以外であれば基本的に影響しません。保険会社の減額主張には反論の余地が大きいので、諦めずにご相談ください。
Q. 通勤で自転車を使う従業員に、会社はヘルメットを着用させるべき?
義務ではありませんが、通勤・業務中の事故は労災や会社の使用者責任に発展し得るため、就業規則・通勤規程での着用推奨や自転車保険加入の確認は、リスク管理として有効です。
まとめ
自転車ヘルメットは罰則のない努力義務ですが、事故時の賠償実務では非着用が減額主張の材料にされ得ます。かぶる理由は「ルールだから」ではなく「命と賠償の両方を守るため」です。自転車事故の被害に遭われた方、保険会社の提示や過失割合に納得できない方は、横浜キャピタル法律事務所までお気軽にお問い合わせください。
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