個人が中古の自宅や相続した実家を売るとき、売買契約書に「売主は契約不適合責任を負わない」という免責特約を入れるのはよくあることです。築年数の古い建物では、引渡し後に雨漏りやシロアリ被害が見つかっても売主は責任を負わない、という合意は原則として有効です。ところが、この特約があっても売主が責任を免れない場面が法律で定められています。本記事では、売主の立場から、免責特約が効かなくなる3つのケースと、売却前にしておくべき備えを弁護士が解説します。
契約不適合責任と免責特約の基本
売った不動産が種類・品質・数量について契約の内容に合っていなかった場合、売主は買主に対して契約不適合責任を負います。買主は、修補などの追完(民法562条)、代金の減額(同563条)、損害賠償、契約の解除(同564条)を求めることができます。
この規定は当事者の合意で変えられるため、「責任を一切負わない」「引渡しから3か月以内に通知されたものに限り責任を負う」といった特約も、原則として有効です。個人間の中古住宅の売買では、責任を全部免除するか、期間を3か月程度に限るのが一般的です。問題は、次の3つのケースでは特約の効力が否定されることです。
免責特約があっても売主が責任を負う3つのケース
① 売主が知っていたのに告げなかった不具合
免責特約があっても、売主が知りながら告げなかった事実については責任を免れません(民法572条)。個人の売主にとって、最も争いになりやすいのがこのケースです。
- 数年前に雨漏りがあり、応急処置だけして売った
- シロアリの駆除をしたことがあるが、告知書に「なし」と書いた
- 隣地との境界で揉めていることを伝えなかった
- 給湯器や浴室設備の故障を知っていたが、付帯設備表に「故障なし」と記載した
「修理したから直っていると思った」という場合でも、過去の不具合を告げなかったこと自体が問題になり得ます。買主は、修理業者の記録、近隣住民の証言、売主が仲介業者に出したメールなどから「知っていた」ことを立証してきます。
② 売主が不動産業者で、買主が個人の場合
売主が宅地建物取引業者の場合、買主(業者以外)に不利な特約は、通知期間を引渡しから2年以上とするものを除いて無効です(宅地建物取引業法40条)。免責特約や「3か月」の特約は無効となり、民法の原則(買主が不適合を知った時から1年以内の通知)に戻ります。また、売主が事業者で買主が消費者の場合は、消費者契約法8条により、責任を全部免除する条項は原則として無効です。買取再販業者から中古住宅を買った場合などが典型です。
③ 新築住宅の構造・雨漏り
新築住宅の売主は、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について、引渡しから10年間責任を負い、これを短くする特約は無効です(住宅の品質確保の促進等に関する法律95条)。個人が中古住宅を売る場面では通常問題になりませんが、建築後1年未満で人が住んだことのない住宅を売る場合は「新築住宅」に当たる点に注意が必要です。
売主が売却前にしておくべき4つの備え
免責特約は万能ではありません。後から「知っていたはずだ」と言われないための準備こそが、売主を守ります。
- 告知書(物件状況報告書)と付帯設備表を正直に書く:過去の雨漏り・修理歴・近隣トラブルは「あった」と書き、修理の時期と内容を添える。告げた事実は契約の前提になるため、後から責任を問われにくくなります
- 修理の記録を買主に渡す:修理業者の見積書・請求書・保証書は、「告げた」ことの証拠にもなります
- インスペクション(建物状況調査)を検討する:専門家の調査結果を開示して売れば、指摘された事項は買主が承知のうえで買ったことになります
- 「現状有姿」だけに頼らない:「現状のまま引き渡す」という文言だけでは、責任を免除する合意とは読まれないことがあります。免責するなら「契約不適合責任を負わない」と明記し、対象と範囲を具体的に書きます
相続した実家のように、売主自身が建物の状態をよく知らない場合は、「売主は居住していないため状況を把握していない」旨を告知書に明記しておくことも有効です。
引渡し後に買主から請求されたら
買主から「雨漏りがある」「修理費を払え」と連絡が来たら、すぐに謝罪や支払いの約束をせず、まず次の点を確認してください。
- 契約書の免責特約・通知期間の定めと、請求がその期間内か
- 指摘された不具合を、売却前に知っていたか。告知書にどう書いたか
- その不具合は引渡し時からあったものか、引渡し後に生じたものか
- 築年数から見て通常の経年劣化の範囲ではないか
免責特約が有効で、売主が不具合を知らなかったのであれば、請求を断ることができます。一方、告知すべき事実を伝えていなかった場合は、修補費用や代金減額で早期に合意したほうが、解除や訴訟に発展するより負担が小さく済むこともあります。
よくある質問
Q. 告知書に「不明」と書いた項目で不具合が見つかったら?
本当に知らなかったのであれば、民法572条の「知りながら告げなかった」には当たらず、免責特約は有効に働きます。ただし、住んでいた期間に当然気づくはずの不具合(たとえば毎年の雨漏り)を「不明」とした場合は、知っていたと認定されるおそれがあります。
Q. 特約で定めた通知期間を過ぎてから請求されたら?
期間を過ぎた通知であれば、原則として請求を断れます。ただし、売主が不具合を知っていた場合は、期間の制限を理由に責任を免れることはできません。
Q. 買主から「解除する」と言われたら、代金を返す必要がありますか?
不適合が軽微であれば解除は認められません(民法541条ただし書)。修補や代金減額で足りる不具合かどうかが争点になるため、すぐに返金に応じる必要はありません。
まとめ
「契約不適合責任を負わない」という特約は、個人が中古不動産を売る場合には原則として有効です。ただし、①売主が知りながら告げなかった不具合、②売主が宅建業者や事業者で買主が個人の場合、③新築住宅の構造・雨漏り、の3つでは特約が効きません。中でも①は個人の売主が最も陥りやすい落とし穴です。過去の不具合や修理歴は告知書に正直に書き、記録を買主に渡しておくことが、免責特約を実際に機能させるための最も確実な方法です。
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