偽装請負は単なる契約形態の問題ではなく、企業に刑事罰や民事責任、さらには直接雇用義務を発生させる重大なリスクです。本コラムでは、実際の摘発事例・是正指導事例と重要判例、偽装請負と判断される具体的な基準、そして発覚した場合に企業が受ける罰則までを、弁護士が実務目線で解説します。自社の請負契約が偽装請負に当たらないか確認したい経営者・人事労務担当者の方は、後半の自主点検リストもあわせてご確認ください。
偽装請負はどこから摘発されるのか
偽装請負は、ある日突然「摘発」されるわけではありません。実務上、発覚の端緒はおおむね次の5つに整理できます。自社にどの経路のリスクがあるかを把握しておくことが、最初の防御になります。
- 都道府県労働局の需給調整事業部門による定期指導・立入調査
- 就労している労働者本人からの申告(労働局・労働基準監督署への相談)
- 退職者や現場担当者からの内部通報
- 労働者派遣事業の許可申請・更新時の審査で判明するケース
- 取引先(発注者・元請)が調査を受けた際に、取引関係をたどって波及するケース
特に多いのが、2番目の労働者本人からの申告です。現場で「請負のはずなのに発注者から直接指示されている」という違和感が積み重なり、退職や労働条件をめぐるトラブルをきっかけに申告に至る、という流れが典型例といえます。つまり偽装請負のリスクは、労務トラブルと連動して顕在化します。
偽装請負の摘発事例・是正指導事例
製造業での是正指導事例
ある大手製造業では、子会社・関連会社との間で請負契約を締結しながら、実際には本社の社員が直接ラインの労働者に作業指示・人員配置を行っていた事案がありました。労働局の調査により偽装請負と認定され、請負契約の解消と労働者派遣契約への切り替えが行われました。この事案では、企業名こそ公表されなかったものの、指導内容の是正報告と社内研修の実施が求められました。
多重下請け構造での違反事例
IT業界や建設業でよくみられるのが、元請・一次下請・二次下請といった多重下請け構造です。実際には末端の労働者が元請の指揮命令下で業務を行っていながら、契約上は下請け会社の従業員として扱われていた事案では、誰が使用者か不明な「使用者不明型」の偽装請負と判断され、元請企業に対する是正指導が行われました。
常駐型システム開発での事例
システム開発の現場では、請負契約でありながらエンジニアが発注者のオフィスに常駐し、発注者の会議に参加して仕様変更の指示を直接受け、勤怠も発注者側のシステムで管理されていた事案が問題となります。成果物ではなく「稼働時間」を基準に報酬が支払われている場合、請負の実態がないと評価されやすく、注意が必要です。契約書の表題が「業務委託契約書」「請負契約書」であっても、判断されるのはあくまで業務の実態です。
偽装請負と判断される基準|37号告示の6要件
労働局が偽装請負か否かを判断する際の基準が、いわゆる37号告示(昭和61年労働省告示第37号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」)です。請負として適法と認められるには、次の2つの独立性をいずれも満たす必要があります。
① 労務管理上の独立性(告示第2条第1号)
- 業務の遂行方法に関する指示その他の管理を、受注者が自ら行っていること
- 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇などの指示・管理を、受注者が自ら行っていること
- 服務規律や配置の決定など、企業秩序の維持・確保のための指示・管理を、受注者が自ら行っていること
② 事業経営上の独立性(告示第2条第2号)
- 業務処理に要する資金を、自らの責任で調達・支弁していること
- 民法・商法その他の法律上、事業主としての責任を負っていること
- 単に肉体的な労働力を提供するものではないこと(機械・設備・資材を自己の負担で準備するか、企画または専門的な技術・経験を要する業務であること)
これらのうち一つでも欠ければ、契約形式にかかわらず労働者派遣に該当すると判断されるおそれがあります。より基本的な判断基準や日常的な対策については「偽装請負とは? 判断基準と企業が取るべき対策」で詳しく解説しています。
偽装請負に関する重要判例
松下プラズマディスプレイ事件(最判平成21年12月18日)
形式上は請負契約であったものの、発注者が労働者に直接作業指示を行い、労働時間管理も実質的に発注者が行っていた事案です。最高裁は、請負元と労働者の間の労働契約は有効に成立しているとしたうえで、発注者と労働者との間に黙示の労働契約が成立したとは認められないと判断しました。違法派遣状態にあることから直ちに発注者との労働契約が生じるわけではない、と示した点に意義があります。
ただし注意が必要なのは、この判決が労働契約申込みみなし制度の導入前の事案だという点です。現在は後述の派遣法40条の6が適用されるため、同種の事案でも結論が変わり得ます。過去の判例だけを根拠に「発注者に直接雇用義務は生じない」と考えるのは危険です。
労働契約申込みみなし制度(派遣法40条の6)
2015年10月1日に施行された労働契約申込みみなし制度により、違法派遣と知りながら労働者を受け入れた発注者は、その時点で労働者に対して直接雇用の労働契約を申し込んだものとみなされます。偽装請負はこの「違法派遣」の類型に明記されています。
みなされた申込みは違法状態が終了した日から1年間有効で、その間に労働者が承諾の意思表示をすれば、発注者との間に労働契約が成立します。労働条件は派遣元(受注者)における条件と同一とされます。発注者が違法であることを知らず、かつ知らなかったことに過失がなかった場合は除外されますが、実務上この善意無過失が認められるハードルは高く、安易に期待すべきではありません。
偽装請負が発覚した場合の罰則
偽装請負は、主に以下3つの法律違反に該当し、企業・個人に対して重い罰則が科されます。
- 労働者派遣法違反:1年以下の懲役または100万円以下の罰金(派遣法59条)
- 職業安定法違反(労働者供給事業の禁止):1年以下の懲役または100万円以下の罰金(職安法64条)
- 労働基準法違反(中間搾取の排除):1年以下の懲役または50万円以下の罰金(労基法118条)
是正指導から企業名公表までの流れ
刑事罰が適用されるのは悪質なケースに限られますが、それ以前に労働局による行政対応が段階的に進みます。実務では次のように推移します。
- 第1段階:労働局の調査(立入調査・書類確認・関係者ヒアリング)
- 第2段階:指導票の交付による是正指導と、是正報告書の提出(派遣法48条)
- 第3段階:指導に従わない場合の改善命令(派遣法49条)
- 第4段階:命令にも従わない場合の企業名公表(派遣法49条の2)、派遣元であれば許可取消
重要なのは、第2段階の是正指導に誠実に対応すれば、企業名公表まで至るケースは多くないという点です。逆に、指導を軽視して実態を改めないまま報告だけを繕うと、一気にレピュテーションリスクが現実化します。調査の連絡を受けた時点で弁護士に相談し、事実関係の整理と是正方針の設計を行うことをおすすめします。
労働者からの直接雇用申込みと損害賠償
前述のみなし雇用制度により、労働者から直接雇用を求められる可能性に加え、過去の就労に関して未払賃金や慰謝料の請求を受ける可能性もあります。企業としては罰則以上に、実質的な人件費負担・紛争対応コストが大きな問題となります。複数名が同時に権利行使をした場合、負担は一気に膨らみます。
自社が偽装請負になっていないかの自主点検
次の項目に一つでも当てはまる場合、偽装請負と判断されるリスクがあります。まずは現場の運用実態を確認してください。
- 発注者の社員が、受注者の労働者に直接作業手順や進め方を指示している
- 受注者の労働者の出退勤・残業を、発注者側が承認・管理している
- 発注者が、受注者の労働者の人選や交代を指名している
- 報酬が成果物ではなく、稼働時間・人数を基準に算定されている
- 受注者側に現場責任者がいない、または責任者が指示を取り次ぐだけになっている
- 業務に使う機械・資材・ソフトウェアをすべて発注者が提供している
該当項目があった場合、契約書の文言を直すだけでは解決しません。指揮命令系統の再設計、現場責任者の権限の明確化、報酬体系の見直しなど、運用そのものの是正が必要です。
よくある質問
契約書を「業務委託契約書」にしておけば偽装請負を避けられますか。
避けられません。偽装請負の判断は契約書の表題や文言ではなく、業務の実態に基づいて行われます。契約書が整っていても、現場で発注者が直接指示していれば偽装請負と評価されます。
発注者側にも責任は生じますか。
生じます。労働契約申込みみなし制度は発注者に対する制度であり、直接雇用義務という最も重い効果を負うのは発注者です。「受注者が労務管理をしているはずだ」という認識のままでは防げません。
労働局から調査の連絡が来ました。何から始めるべきですか。
まず契約書・作業指示の記録・勤怠管理データ・現場責任者の職務内容など、実態を示す資料を整理してください。そのうえで、是正が必要な部分と説明可能な部分を切り分けます。調査対応の初動で不用意な説明をすると後から訂正が難しくなるため、早い段階で弁護士に相談されることをおすすめします。
まとめ
偽装請負は、刑事罰・行政指導・みなし雇用・損害賠償と、複数のリスクが重なる深刻な法令違反です。契約書が「請負」となっていても、業務実態次第で偽装請負と判断されます。特に労働契約申込みみなし制度の導入以降、発注者が負うリスクは以前より格段に重くなりました。
基本的な判断基準や企業が取るべき対策については「偽装請負とは? 判断基準と企業が取るべき対策」もあわせてご覧ください。自社が偽装請負に該当しないか不安な場合、また労働局から調査の連絡を受けた場合は、早めに弁護士へご相談ください。当事務所では顧問契約による継続的な労務体制の点検にも対応しています。
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