「作業中に従業員が機械で指を負傷した」「営業中の従業員が交通事故に遭った」——労災はどの会社でも起こり得ます。そして労災発生時の会社の対応を誤ると、「労災隠し」として刑事責任を問われたり、労災保険ではカバーされない高額の民事賠償を請求されたりと、被害が二重三重に拡大します。本コラムでは、労災発生直後に会社が取るべき対応と、やってはいけないNG対応、その後の法的リスクへの備えを、企業側の視点で弁護士が解説します。
労災発生直後に会社がやるべきこと
- 救護と受診の最優先:応急処置と医療機関への搬送を最優先します。受診先が労災指定医療機関であれば、被災者の窓口負担なしで治療を受けられます
- 現場の保存と記録:事故現場・機械の状態・作業状況を写真で記録し、目撃者から状況を聴取します。後の原因調査・労基署対応・民事交渉すべての基礎資料になります
- 労働者死傷病報告の提出:休業4日以上の労災は遅滞なく、休業4日未満でも四半期ごとに、労働基準監督署へ報告する義務があります(2025年から電子申請が原則化されています)
- 労災保険の請求手続きへの協力:療養補償給付・休業補償給付などの請求について、会社は証明欄の記載など手続きに協力する義務があります
絶対にやってはいけない「労災隠し」——罰金と書類送検のリスク
「労災を使うと保険料が上がる」「監督署に目を付けられたくない」という理由で、死傷病報告を出さない・虚偽の内容で出す・健康保険で治療させる——これらは労災隠しと呼ばれ、労働安全衛生法違反として50万円以下の罰金の対象です。労働局は労災隠しを重点取締り事項としており、書類送検されれば企業名が公表されるのが通常の運用です。金額としては小さく見えても、公共工事の指名停止や取引先の信用喪失など、事業への打撃は罰金の比ではありません。
また、被災者に「自分の健康保険で治療しておいて」と求めることは、それ自体が違法であるだけでなく、後に従業員との深刻な対立の引き金になります。労災は労災保険で処理する——これが唯一の正解です。
労災保険だけでは終わらない——会社への損害賠償請求
労災保険から給付が行われても、会社の責任がそれで消えるわけではありません。労災保険は慰謝料を一切カバーしないうえ、休業補償も給付基礎日額の8割(特別支給金込み)にとどまります。そのため被災者側から、安全配慮義務違反(労働契約法5条)を理由に、慰謝料や逸失利益との差額の損害賠償を請求されるケースが多くあります。機械の安全装置の不備、安全教育の欠如、長時間労働の放置などが認定されれば、後遺障害事案では数千万円規模の賠償になることも珍しくありません。
会社側の備えとしては、①事故原因の客観的な調査と記録、②再発防止策の速やかな実施、③示談交渉の際に労災給付との調整(損益相殺)や過失相殺を正しく反映すること——が重要です。安易に「全額支払います」と口約束せず、賠償額の妥当性は必ず専門家に確認してください。
解雇・雇止めは制限される——労基法19条
業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間とその後30日間は、原則として解雇できません(労働基準法19条)。「長期離脱するなら辞めてもらおう」という対応は法律上封じられており、強行すれば解雇無効・損害賠償のリスクを負います。復職支援・配置転換・休職制度の適用など、就業規則に沿った丁寧な対応が必要です。
労基署の調査・是正勧告への対応
重大な労災では労働基準監督署の実地調査(臨検)が行われ、安全管理体制の不備があれば是正勧告・使用停止命令等が出されます。調査には誠実に対応しつつ、事実関係の説明や書類の提出については、刑事責任(業務上過失致死傷・安衛法違反)に発展し得ることも踏まえて、早期に弁護士へ相談されることをおすすめします。
まとめ
労災対応の鉄則は、①隠さない(死傷病報告を必ず出す)、②記録する(現場・原因・対応の記録化)、③労災保険で終わったと思わない(民事賠償への備え)、④解雇制限を破らない——の4点です。横浜キャピタル法律事務所では、労災発生直後の初動アドバイスから、労基署対応、被災者側との示談交渉まで企業側の立場で一貫してサポートしています。労災が発生してお困りの企業の方は、お早めにお問い合わせください。
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