「兄弟で相続した実家を売却したいのに、兄が反対して話が進まない」「離婚した元配偶者と共有名義のマンションをそのままにしている」——不動産の共有は、全員の同意がないと売却できないため、意見が対立した瞬間に身動きが取れなくなります。固定資産税の負担だけが続き、空き家は傷んでいく。この膠着状態を法的に解消する手段が共有物分割請求です。共有者は原則としていつでも分割を請求でき(民法256条)、協議がまとまらなければ裁判所に分割を求めることができます。本コラムでは、2023年施行の民法改正も踏まえ、共有状態を解消する具体的な方法と流れを弁護士が解説します。
分割の3つの方法——現物分割・賠償分割・競売分割
共有物分割には3つの方法があり、2023年4月施行の民法改正(258条)で裁判所が命じる順序が明文化されました。
- 現物分割:土地を持分に応じて物理的に分ける方法。広い土地では可能ですが、建物や狭小地では現実的でないことが多いです
- 賠償分割(価格賠償):共有者の一人が不動産を単独取得し、他の共有者に持分相当額の金銭を支払う方法。「実家に住み続けたい兄が、弟に持分の代金を払う」形です。判例(最高裁平成8年10月31日判決)は、特定の共有者に取得させるのが相当で、かつ支払能力があるなどの要件のもとでこの全面的価格賠償を認めており、改正法で明文化されました
- 競売分割(換価分割):現物分割も賠償分割もできない場合に、不動産を競売にかけて代金を持分割合で分ける方法。市場価格より安くなりがちなため、最後の手段です
解決までの流れ——協議→調停→訴訟
実務では次のステップで進めます。
- 分割協議の申入れ:弁護士名で他の共有者に協議を申し入れます。「持分を買い取る」「買い取ってもらう」「共同で売却して代金を分ける」という3案を軸に交渉します。弁護士が入ることで、感情的対立で止まっていた話が動き出すケースが多くあります
- 共有物分割訴訟:協議が整わない場合、裁判所に分割を請求します(調停を経ることもできますが、訴訟から始めることも可能です)。訴訟の中でも和解による解決が活発に行われ、鑑定で不動産価格を確定したうえで賠償分割の和解に至る例が典型です
- 判決:和解に至らなければ、裁判所が上記3方法のいずれかを命じます。共有物分割訴訟は「請求棄却で終わり」がなく、必ず何らかの分割方法が定まるのが大きな特徴です
共有物分割を弁護士に依頼するメリット
共有物分割請求は、本人でも申し立てることができる手続きです。それでも弁護士に依頼する価値があるのは、この紛争が「勝つか負けるか」ではなく「どの出口を選ぶか」で結論が決まる類型だからです。訴訟になれば裁判所は必ずいずれかの分割方法を命じるため、争点は最初から「分割するかどうか」ではなく「どの方法で、いくらで分けるか」に絞られます。
①望む出口から逆算して方針を設計できる
実家に住み続けたいのか、現金化したいのか、相手に買い取らせたいのか。望む結論によって、主張すべき事実も、集めるべき資料も、和解に応じてよい水準も変わります。とくに全面的価格賠償を求める場合は、後述のとおり取得の相当性と支払能力を裁判所に示す必要があり、準備の順序を誤ると途中からの軌道修正が困難になります。
②不動産の評価額で不利を被らない
賠償分割でも換価分割でも、結論の中身は最終的に「いくらか」で決まります。相手方が提示する評価額や、鑑定の前提条件をそのまま受け入れると、結果が数百万円単位で変わることも珍しくありません。鑑定評価への反論、近隣取引事例の提出、建物の劣化状況や占有・借地権の存在といった減価要因の主張など、価格を動かす作業は専門性の高い部分です。
③感情的な対立が続く相手との間に立てる
共有者は親族であることが多く、当事者同士の交渉は過去の経緯や介護・生前贈与をめぐる不満が持ち出される展開になりがちです。弁護士が窓口になると、やり取りが「持分をどう精算するか」という一点に整理され、何年も止まっていた協議が動き出すケースが少なくありません。
④所在不明の共有者がいても手続きを進められる
前述の所在等不明共有者の持分取得・譲渡の制度は、所在調査を尽くしたうえで裁判所に申し立て、時価相当額を供託して進める手続きです。戸籍や住民票の調査を含め、本人だけで完結させるには負担の大きい部分をまとめて任せられます。
⑤住み続けたい場合の防御になる
支払能力がないと判断されれば競売となり、退去を迫られる可能性があります。全面的価格賠償を勝ち取るには、その共有者に取得させることが相当であることと、代償金の支払能力があることの双方を示さなければなりません。資金調達の方法を含めた組み立てが、そのまま住み続けられるかどうかを左右します。
弁護士に相談するタイミング
最も自由度が高いのは他の共有者に話を持ちかける前です。出口を決めてから切り出せるためです。ただし、どの段階からでも打てる手はあります。
- まだ誰にも話していない:最も選択肢が広い段階です。評価額の見当と資金計画を立てたうえで交渉を始められます
- 協議が平行線になっている:弁護士名での申入れにより話が動くことが多く、訴訟前の実質的に最後の交渉機会です
- 相手方に弁護士がついた/訴状が届いた:早急にご相談ください。答弁書でどの分割方法を求めるかを明示する必要があり、ここで示す方針が結論を大きく左右します
- 持分が買取業者に渡った:業者は分割請求訴訟を本来の出口として動くため、対応の遅れがそのまま不利につながります(詳しくは共有持分を勝手に売却された場合の対処法をご覧ください)
費用はどう考えればよいか
共有物分割では、弁護士費用のほかに次の実費が生じます。
- 訴訟の実費:印紙代と予納郵券。印紙代は目的物の価額に応じて決まります
- 鑑定費用:裁判所が不動産鑑定を実施する場合の費用です。分割方法や価格が本格的に争われる事案では必要になることが多く、数十万円程度かかるのが一般的です
- 登記費用:分割の結果に応じた所有権移転登記などにかかる費用です
判断の軸は「争うことで動く金額との比較」です。賠償分割の代償金も換価分割の配当も不動産の評価額に連動するため、評価が数百万円動く事案であれば費用を上回る実益があります。逆に持分が小さく争う実益に乏しい場合は、費用倒れにならない解決方法を先に検討すべきです。当事務所の費用については費用のご案内をご覧ください。
連絡が取れない共有者がいる場合——2023年改正の新制度
数次相続などで共有者の一部が行方不明・連絡不能になっている不動産でも、あきらめる必要はありません。2023年4月施行の改正民法により、裁判所の決定を得て所在等不明共有者の持分を他の共有者が取得したり(民法262条の2)、持分を含めて不動産全体を第三者に譲渡したり(262条の3)できる制度が新設されました。持分の時価相当額を法務局に供託することで手続きが進むため、「一人でも所在不明者がいると売れない」という従来の壁は大きく崩れています。
よくある質問
Q. 持分だけを業者に売ってしまえばよいのでは?
共有持分のみの売却は可能ですが、買い取るのは共有持分専門の業者で、市場価格の持分割合よりかなり低い金額になるのが通常です。また、業者が新たな共有者として分割請求をしてくるため、残った共有者との紛争の火種にもなります。まずは分割請求による正攻法の解決を検討すべきです。
Q. 相続したばかりの不動産でも分割請求できますか?
遺産分割前の相続財産は、原則としてまず家庭裁判所の遺産分割手続きによります。相続開始から10年を経過した場合等の特則もあり、どちらの手続きによるべきかは事案によりますので、ご相談ください。
Q. 住んでいる共有者を追い出されることはありますか?
賠償分割により居住者が単独取得して解決する例が多いですが、支払能力がない場合には競売となり退去を迫られる可能性もあります。居住継続を望む場合こそ、早期に交渉戦略を立てることが重要です。
まとめ
共有不動産は「話し合いが決裂したら終わり」ではなく、共有物分割請求により必ず出口にたどり着ける紛争類型です。買い取るのか、買い取らせるのか、売って分けるのか——ご希望に沿った出口から逆算して交渉・訴訟を設計することが重要です。横浜キャピタル法律事務所は共有不動産トラブルの解決に力を入れています。共有状態でお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。
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